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虚構推理 〜 フェイクの力

虚構推理。原作者城平京のアニメ。最近テレビ放送されていたが、アマゾンプライムで視聴。原作は読んでいない。

kyokousuiri.jp

主人公岩永琴子は隻眼片足の女子大学生だが、妖怪や亡霊などの怪異とコミュニケーションできる特殊能力があり、“知恵の女神”として、怪異の問題を解決している。メインストーリーはアイドル七瀬かりんにまつわるもの。七瀬かりんは事故で顔面に鉄骨を受けて死亡するのだが、その後「鋼人七瀬」という怪異が出現する。「鋼人七瀬」は、顔は黒塗りになっていて鉄骨を振り回して暴れる。琴子は、このような問題のエキスパートであり、「鋼人七瀬」は亡霊ではないことがすぐわかった。更に調査を進めると、琴子のパートナーである桜川九郎の従姉桜川六花が「鋼人七瀬」のウェブサイトをつくって、閲覧者の想像力を膨らませることで「鋼人七瀬」を実体化させたのだと見抜く。「鋼人七瀬」は存在しない、という噂をネット上で流布して人々が信じれば「鋼人七瀬」は消失するのだが、真実は面白くないので、人々は相手にしない。そこで琴子らは、六花以上に説得力がある虚構(フェイク)をつくって人々を信じさせ、六花の目論見を破壊、「鋼人七瀬」を消失させたのだった。

虚構推理ではフェイクが「鋼人七瀬」という凶暴な怪異を生み出したわけだが、現実は遥かに凶悪だ。「ナイラ証言」を思い出す。1990年のイラククウェートに進行したときに、ナイラというクウェートの少女が、イラク軍の残虐行為を目撃し、それを人権委員会で証言した。この証言は世界的な反イラク世論を呼び起こし、米国が湾岸戦争に参戦する大きなきっかけとなった。ところが、その後ナイラは実は駐米クウェート大使の娘で米国から一歩も出たことはなく、証言は完全なでっち上げであることがわかった。また「ナイラ証言」を影で指導していたのは、クウェート側(一応政府ではない)から依頼を受けた米国のコンサルティング会社だった(米国政府との関係は不明)。この事件はフェイクが戦争を引き起こす力があることを示している。

この話を最初に読んだとき、「アングロサクソンは何でもありだ、彼らと絶対争ってはだめだ」、と思った。ビジネスや科学研究で互角であっても、情報宣伝戦で潰されてしまう。太平洋戦争前の米国のやり方と通じるものがあり、日本の政治的指導者たちも、思い知ったのだろう、戦後の日本のあり方に大きな影響があった、と思う。

中国の新型コロナウイルスに関するプロパガンダと比較すると面白い。中国外務省の人がツイッターで「武漢のウイルスは米国軍が持ち込んだものだ」と言うフェイクを流そうとしたが、フェイクの使い方を理解していない事がわかる。「鋼人七瀬」や「ナイラ証言」でもわかるように、フェイクは人々が真実だと信じたときに力を発揮する。現在の状況で誰もこのような話を信じるわけがない。中国政府は米国のコンサルティング会社に依頼すべきだろう(現状では不可能と思うが)。また米国はウイグルでの人権弾圧を非難しているが、自分たちが200年前にインディアン絶滅政策を行ったことを忘れている(あるいは無視している)。この件についてもアングロサクソンは上手で、ウェスタン映画が全世界で見られているため、一般的には白人が善でインディアンが悪者、というイメージが広まってしまった。最近はpolitical correctnessのため、この見方はある程度修正されているが、インディアン絶滅政策を知っている人は少ないだろう。

「ナイラ証言」のその後であるが、流石に非難が殺到したため、このようなプロパガンダは倫理審査委員会の承認がなければ実施できないことになったようである(但し倫理審査委員会はコンサルティング会社が組織するのであまりかわらない気がするが)。米国はその後も姿勢はかわらず、イラク戦争大量破壊兵器所持を理由に戦ったが、大量破壊兵器が見つからなかったのは周知のとおりである。このような戦争プロパガンダのビジネスに関しては現代ビジネスの記事「世界中が衝撃を受けた「戦争広告代理店」の実態と教訓」が詳しい。

gendai.ismedia.jp

アニメを見て思い出したことを書いたが、虚構推理は面白かった。特に琴子が気の利いたことを云うのが良い。同じ原作者の絶園のテンペストも面白かったので、この原作者と親和性があるのだろう。